『 My Boy ― (2) ― 』
§ かわいい鬼たち ( 承前 )
ジョーが住んでいるマンションは ごく普通の都市タイプで住人も若者が多い。
各戸の部屋数は少なく そんなに広くもないので、学生や独身のサラリーマンがほとんどだが
若い夫婦ものも2〜3組はいた。
お互い顔もしらず、干渉もしあわない ― 都会のマンションの典型だった。
「 ・・・ 深夜でよかった・・・ってことか。 」
ジョーは倒れた女性を抱き上げ エレベーターに乗った。
「 ・・・うん? あれ ・・・ 怪我してるのかあ ・・・ 」
コートに染みが浮き出ていた。 これは・・・血? いや ちょっと違う ・・・
ジョーは慎重にその女性を運んでゆく。
コートの下はセーターに長めのスカート、そしてロング・ブーツを履いている。
そのセーターも片袖がぶらりと垂れているのだが ・・・
「 義手との接合部分を損傷したのかな そんなに酷くはなさそう・・・
ぼくの手当てでなんとか ・・・ なるか 」
・・・ チン ・・・! 低い音がしてやっと着いた。
ポケットの中から鍵をひっぱりだし、部屋を開ける。
「 ふう ・・・ なんとか誰にも見られずに済んだな ・・・
さて ・・・と。 さあて・・・ 君はぼくの部屋に来る初めての女性ってワケなんだけど・・」
ジョーはよいしょ・・・と女性の身体を抱きなおした。
「 ・・・ リビングのソファで我慢してくださ〜い ・・・ すいません〜〜 」
できるだけ静かに、彼女をソファに寝かせた。
「 ・・・呼吸は正常、だな。 脈は ― ふうん これも異常なし か。 」
顔色を確かめようと、額に乱れた髪を掻きあげた。
「 ? 転んだのか? このキズ・・・ それに随分汚れているなあ
ちょっと待ってくださいね〜 」
ジョーはタオルを掴むとバスルームへ駆け出した。
「 ・・・っと。 ぬらすより氷とかの方がいいかな。 ちょっと熱っぽかったみたいだし
え〜と・・・氷・・・あったっけか・・・ 」
彼はそのままキッチンへゆき冷蔵庫から氷を取り出す。
「 やっぱり博士に連絡、いれとくか・・・ ああ でもこの時間じゃな ますますできないよ。 」
ジョーは氷とタオルを持ってソファの側に戻った。
「 ちょっと失礼します〜 」
タオルでそっと女性の顔を拭う ・・・ と。
「 ・・・ ありがとう。 」
タオルの下から 落ち着いた声が聞こえてきた。
「 ! 気がついたんですね! よかった・・・ 」
「 ありがとう。 あなたを狙ったのに ・・・ こうして助けてくださったのね。 」
「 いや ・・・ それよりもどこか痛むところはありませんか。 額に擦り傷がありますが・・・
あの ・・・ 腕の接合部の損傷は大丈夫ですか。 」
「 ・・・ 詳しいのね。 起きるわ。 」
女性は身じろぎをしゆっくりと身を起こそうとし始めた。
「 あ ・・・ まだ横になっていた方が・・・ 」
「 大丈夫・・・ 怪我はオデコが擦り剥けただけみたいよ。
服を汚したのは サイボーグ部分から滲出した保護液だから・・・ 」
「 ・・・ そうですか。 あ ・・・ ほら このクッションを・・・ 」
ジョーは彼女の背を支え、クッションを差し入れた。
「 ねえ? あなた、ちっとも驚かないのね。 私の身体のこと 」
「 ― ぼくも あなたの腕と同じ、ですから。 」
「 え ・・? 」
「 ぼくの身体は あなたの腕と同様 ・・・ ツクリモノです。 」
「 ・・・ じゃ ・・・サイボーグ・・・? 」
「 そうです。 ぼくの生体部分は ― 脳とあとはわずかな部分だけです。 」
「 え・・・ あなただけ? 」
「 いえ。 あと・・・8人ほど仲間がいます。 もっとも皆違うタイプのサイボーグだけれど。 」
「 ちがうタイプ?? サイボーグ工学はそんなに進んでいる、ということ? 」
「 ・・・まあ そうなんでしょうね。 」
ジョーは苦笑しつつ、どうぞ? とタオルを差出した。
「 あ ・・・ありがとう・・・ でも おかしいわね ・・・
この時代にはまだ完全なサイボーグは存在しないはずだわ。 」
「 ― え ? 」
「 ・・・ あ いえ。 そう ・・・ それじゃ私がここに来た意味はもうおわかりね。 」
「 あの腕 ですか。 」
「 そうよ。 介抱までしてもらったのにどうかと思うけど ・・・
わかっているのなら、なにも言わずに返して欲しいの。 」
「 腕は ・・・ あなたの? 」
「 そうよ。 ちょっとドジって交通事故を装ったヤツラにやられるところだったわ・・・ 」
女性はきちんと上半身を起こし、ジョーを真正面から見つめた。
彼は その時に初めて彼女の顔をはっきりと見た。
・・・ この瞳 ・・・! ああ 吸い込まれそう だ・・・
そう、彼女は豊かな黒髪と夜の闇のごとく、深い湿り気のある黒い瞳をもっていた。
ごくり、とジョーの咽喉が鳴る。 彼は彼女の瞳から逃れられない。
いや ・・・ 彼は逃れたくなかった・・・包み込まれ取り込まれたままがひどく心地好い。
― ジョーは 彼女の瞳に抱かれた。
「 お願い。 余計な騒ぎは起こしたくないの。 返してくれたらそのまま・・・去るわ。 」
「 ・・・ あ あの。 腕は ― ここにはありません。 」
「 ウソおっしゃい。 私にはわかるの。 だってあの腕を追ってここまで来たのよ。 」
「 ・・・ あなたが追ったのは ・・・ コレですか。 」
「 ・・・?! 」
ジョーはゆっくり胸元からチェーンを引っ張り出した。 その先には ― 指輪がひとつ。
「 こ ・・・! 」
「 ええ あなたの腕、いや指に填めていたものです。
なにかがある、と思いぼくが預かっていました。
ああ やっぱりなんらかのサーチの照準になるのですね。 」
「 腕は?! どこにやったの! 教えて。 教えないと ― こんなこと、したくないのよ! 」
女性は ポケットから銃のようなものを取り出した。
「 おねがい・・・! 」
「 だから ここにはありません、さる信頼できる施設に保管してもらっています。 」
「 しせつ ? どこ?! どこなの、それ・・・! ? ・・・ ああ ・・・ 」
興奮して立ち上がった瞬間、 彼女は足元から大きく揺らめいた。
「 あ ! 危ない ・・・! 」
ジョーが咄嗟に腕を差し伸べ ― 彼女はその中に倒れこんだ。
「 ・・・ う ううう ・・・ 」
「 大丈夫ですか? 無理をしてはいけません。 交通事故、といいましたね、
やはりどこか怪我をしているのじゃありませんか。 」
「 ・・・ やっぱり ・・・ アイツら 私を ・・・ 狙ったのね ・・! 」
「 アイツら? ・・・ とにかく、ゆっくり休んでください。 」
ジョーは彼女を抱いたまましずかにソファに腰を降ろした。
「 腕の件は ・・・ 預けてある人に相談してみます。 決して悪いようにはしません。 」
「 ・・・ ・・・ 優しいのね ・・・ 」
黒い瞳が ジョーを捉える。 みどりの黒髪がジョーの頬に、腕に 肩に 触れる。
くらり ・・・ 眩暈が彼を襲う。 ジョーは歯を食い縛り意識を保つ。
「 ・・・ ぼ ぼく は ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ジョー? すてきな名前ね。 わたしは ― リナ。 」
「 リナ? ・・・ あなたの眼差しは ・・・ とても懐かしい ・・・ 」
「 ・・・ そう? あなたは可愛い迷子の仔犬ね。 茶色の瞳の迷い犬よ。 」
「 そう かもしれない ・・・ り リナ ・・・ ぼく ・・・ は ・・・! 」
― ぷつん。 ジョーの中でなにかが 途切れた。
「 いらっしゃい ・・・ 可愛い迷子さん ・・・ 」
白い手がするり、とジョーの頬をなで彼の首に絡みつく。
「 ・・・ う ・・・ 」
「 淋しいの? ・・・ ひとりぼっちで寒いのね・・・ いらっしゃいな・・・ 」
ふわり、と温かい身体が ジョーにかぶさってきた。
「 ・・・あ あなた は ・・・ 」
「 私も寒いの。 ・・・ 温めてちょうだい ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ・・・ リ リナ ・・・! 」
ジョーの手がぎこちなく彼女の肩に、背に回り彼女を抱き締める。
「 ・・・ ぼくは ・・・ か かあさん ・・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーは 夢うつつのうちに黒い瞳の女性と唇を重ねてあった ・・・
― カチャ ・・・ カチャ ・・・
・・・ う ・・・ ううう ・・・・?
食器の触れ合う微かな音、そして ・・・ コーヒーの香り。
そんな当たり前の朝の雰囲気を ジョーはぼんやりと感じていた。
・・・ 朝 かあ ・・・ あれ ・・・ フラン、来てたのかなあ・・・
ぼ〜っと目を開ければ 見慣れた天井が目に入る。
どうやらここは自分の部屋で 自分のベッドに横たわっている らしい。
ふぁ 〜〜 ・・・・ 寝ぼけてるんだ、きっと。 あと5分 ・・・
― え !?? ―
「 ぼくは??! いったいいつ、こんなところに?? 」
ジョーは一瞬にして覚醒し ― 跳ね起きた。
「 ・・・・ あ。 ここはぼくの部屋、だよな・・・ 」
油断なく周囲を見回したが ここは確かにジョー自身の寝室だった。
きちんとパジャマを着て眠っていたらしい。
「 ・・・ そ そんな・・・・ 昨夜 ぼくは ・・・ 」
なにも 覚えていない。 彼はすばやく着替えをし リビングの方向を窺った。
「 ・・・ あの音 ・・・ リビングにいのは ― フランじゃない。
ってことは・・・? 昨夜の ・・・ あのヒト か・・・? 」
ズキン ・・・! 目の奥が痛んだ。
ジョーはコメカミを押さえ低く呻いた。
「 ふ ・・・ 二日酔い? いや 昨夜は呑んでなんかいない。
昨夜 ・・・ そう、あのヒトと話合っていて ・・・ なんかこう〜〜 温かいものが・・・ 」
定かではない記憶をたぐり辿ってみるが あやふやでなんとも頼りない。
「 ・・・ もう 直接聞いてみるっきゃないか。 なんだって眠っちまったのかなあ。 」
不意に ― あの黒々とした瞳、そして豊かな髪の感触が蘇ってきた。
艶やかな髪は 両手に余りするり、とジョーに絡みつき ・・・ 彼のこころを絡めとり
深い眼差しは ジョーのこころの底まで見通すかのように ・・・ 彼の情熱に火をつけた。
・・・ ぼ ぼくは ・・・彼女 と ・・・?
そ それで・・・ ああ その後は全然覚えていない・・・!
「 ・・・ おいジョー? お前ってば相当おめでたくないか?? 」
ジョーはふか〜い溜息をもらすと足音を忍ばせてリビングへと向かった。
そこには 背の高い女性が いた。
「 ・・・・ あ あの〜・・・・ えっと・・・ リナ さん? 」
「 ふんふ〜ん♪ あら お早う、ジョーさん。 気持ちのいい朝ね。 」
「 お早うございます・・・ あの ・・・ 昨夜は ・・・ 」
「 え? 昨夜? ・・・ くふふ・・・ 若いっていいわねえ〜〜
ふふふ ・・・ 素敵な寝顔をたっぷり眺めさせてもらったわ♪ 」
「 ! ・・・え あ あの・・・ 」
・・・え! あ ぼく ま まさか・・・その・・・彼女と?
ジョーは強張った顔で突っ立っている。
リナは ふふん・・・・と笑いかえす。
「 だからね、 その御礼、というわけでもないんだけど。
朝食、作って見ました。 かってに冷蔵庫の中身、使わせてもらってよ。 」
「 ・・・ は はあ ・・・ 」
ふわ〜〜ん ・・・ 焼きたてベーコンの香りがジョーをしっかりと捕らえる。
「 あのねえ。 いくら一人暮らしでも もうちょっと何か買い置きしておいたら? 」
「 ・・・ は へ・・・? 」
「 さあさあ〜〜 そんなトコに突っ立ってないで。 座って 座って?
私の料理の腕もなかなかなのよ? 」
「 あ ・・・ う 腕 ってば・・・ 」
「 え? あら 料理をするのには片方あれば十分よ。
あ〜 でも洗い物はお願いするわ。 ここの家主さんにね。 」
「 あ あは ・・・ 」
ジョーはもう腹を括った。 ともかく今は この状況を素直に受け入れよう!
「 あ ・・・ あの! い いただきます。 」
「 はい どうぞ。 」
二人は向かい合って食卓に座った。
開け放った窓から入る風が すこし冷たい。
「 あの ・・・ 窓、閉めましょうか。 」
「 あら どうして? 」
「 え ・・・寒くないですか。 この時期はまだ朝晩は真冬と同じですよ。 」
「 ジョーさんは寒い? 」
「 いえ ぼくは平気ですが。 ・・・ あの ジョー でいいです。 」
「 そう? それならしばらく開けていてもいいかしら。
朝の光 ・・・ そして新しい日の始まりに吹く風 ・・・ 」
彼女は深く冷たい大気を吸い 光の乱舞に目を細めている。
「 ・・・ ? 寒くなったら言ってください。 ・・・うわ〜〜〜 ウマい〜〜 」
ジョーはベーコン・エッグを頬張り 大感激の模様。
そんな彼を 彼女 ― リナは微笑んでみつめている。
「 ・・・ うま〜い・・・ あれ、食べないんですか、リナさん。 」
「 ふふ・・・・ ジョーのシアワセそうな顔を見ていたいの。
ねえ 野菜って本当にきれいね。 この色に勝てるものは ・・・ ないわ。 」
リナはフォークの先のブロッコリーを愛しそうに見つめてばかりいる。
なんだ? 野菜とか不足がちな地域から来たのかなあ・・・
「 あの〜 ・・・・ よかったら その。 腕 を保管しているところに御案内しますが。
いろいろ・・・相談に乗ってくれるヒトもいます。 」
「 ・・・ ありがとう。 ああ ・・・ ちょっと考えが変わったわ。
ねえ? ご迷惑でなかったら 今日一日だけでいいの、 ここに居させてくださらない。 」
食事の手を止め、リナはじっとジョーを見つめた。
「 え。 あ あの・・・・ぼ ぼくはちっとも構いませんが・・・
ああ で でも 今日、ちょっと出かけなくちゃならなくて ・・・
あ! そ そうだ! 留守! 頼めますか〜〜 」
ジョーは自分の声のトーンがどんどん高くなっているのに、気が付かない。
クス・・・ リナの笑顔に ジョーもつられて笑ってしまった。
「 ええ よくってよ。 ふふふ 晩御飯も用意しておくから。
しっかりお仕事していらっしゃい。 」
「 あ ・・・ ありがとうございます。 あの〜買い物とかわかりますか?
下の道を東に駅の方へもどるとスーパーがあります。 」
「 了解。 ― 大丈夫、悪さはしません。 この腕じゃ ね? 」
「 あ! ふ 服とか・・・あの〜〜ウチの女物はないんで ぼ ぼくのでよければ・・・ 」
「 ありがとう。 ・・・ ふふふ 私は君の姉さんか叔母さんってことにしておきましょうか。 」
「 あは ・・・ 気にするひと、いませんから。 」
「 そう? ・・・ ああ ・・・ 素敵ねえ・・・ 」
リナは ふ・・っと視線を窓から外に飛ばす。
なんの変哲もない、冬の晴天が広がり空っ風が突き抜けてゆく。
ふうん? 南国とかのヒトなのかなあ・・・・
美味しい朝食をたらふく詰め込んで ジョーはご機嫌で仕事にでかけた。
彼はレーサーの体験を活かし クルマ関係の雑誌社に出入りしている。
もっとも嘱託の、フリーライターに近い形だが 確実に実績を積んでいた。
彼は張り切って職場にでかけ、上機嫌でいつくかの取材をこなした。
― そして ご機嫌ついでに 張々湖飯店と研究所に連絡を入れることをすっかり忘れた・・・
キ・・・! バタン!
その夜 ジョーのクルマは最短ルートで都心から戻ってきた。
クルマを車庫にいれると、ジョーは一目散にエレベーターに駆け込む。
いつもはぶらぶら・・・ 時にはざっと愛車の掃除なんぞもしているのだが・・・
本当なら 途中でギルモア邸に立ち寄り、 多分泊まってくる予定だった。
― 週末、普段からジョーはよほどの仕事が入らない限りギルモア邸に<帰って>いる。
「 ほ〜う ・・・ ボーイは週末は実家に帰る、という訳か。 」
「 ええやないか、グレートはん。 家族は大切にせなあかん。
週末は せいぜい力仕事やら掃除やら・・・フランソワーズはんを手伝うてや。 」
グレートと大人は軽い口調ながらジョーの様子にほっとしている様子だ。
「 あ〜 週末は実家に帰らないと・・・ 」
ジョー自身、そんな風な言葉を口にだせることが嬉しかった。
「 ・・・た ただいま! あの ・・・ リナ さん? 」
バタバタ玄関からキッチンに駆け込めば ― エプロン姿が振り向いた。
「 あら。 お帰りなさい、 ジョー。 」
白いエプロンに 黒髪の裾が掛かる。 お玉を持ち黒い瞳が笑っている。
ジョーの視線は 彼女の張り付いたまま、動かない。
「 ・・・! あ あの ・・・ た ただいま 」
「 はい、お帰りなさい。 案外早かったのね。 」
「 は ・・・ あ あの・・・ 最高スピードで帰って うん? いい匂い〜〜〜 」
空腹には魅惑的すぎる匂で キッチンはいっぱいだ。
「 うふふふ・・・・ 肉ジャガなの。 好きかしら? 」
「 !!! だっい好きです!!! 」
ジョーはぶんぶん首を縦に振っている。
「 まあよかった。 美味しそうなお野菜を沢山見つけたのよ。
じゃがいも も にんじん も たまねぎ も。 あんまり綺麗でお料理するのが惜しかったわ。 」
「 へ? ・・・だって生じゃ食べられませんよ。
うわ〜〜〜 この匂い〜〜 すげ〜〜誘惑だ! 」
「 ふふふ ・・・手を洗っていらっしゃい。 ず〜っと煮ていたからいい味に浸みたはず。 」
「 は〜い♪ うわお〜〜 」
ジョーは子供みたいにはしゃいでバスルームに飛んで行く。
「 ・・・ そうよね。 食べ物 ・・・いえ、食事って本当に 素敵 ・・・ 」
リナは独り言のようにつぶやきつつ、食卓を調えている。
テーブルに真ん中にはコップに挿した野菊が一輪。
「 これが生命の輝き なのね ・・・ きれい ・・・ ああ なんてきれいなの・・・ 」
「 きっちり洗ってきたです! あ なにか手伝えることは・・・ 」
「 ふふ ・・・ あなたはね、お腹いっぱい食べてくださればいいの。 はい、 どうぞ。 」
― トン。 湯気の上がる深皿がジョーの前に置かれた。
「 ・・・ぅ・・・ わ・・・! い ・・・ いただきマス! 」
ジョーは本当にちょっと震えつつ 箸を取り上げた。
「 わたしも頂きます。 ・・・ あら 結構いい味になったわ〜 ね? 」
「 ・・・ う うまいデス・・・! 」
ジョーは口を利くのも惜しそうに ひたすらせっせと箸を動かしている。
「 まあ ・・・ ふふふ ・・・ いいわねえ 本当に ・・・ いいわねえ ・・・ 」
彼女は夢中なジョーを、 食卓を、 そして部屋全体をながめ、小さく吐息をつく。
ほんとうに ・・・ いいわねえ ・・・ ほんとうに ・・・
小さな部屋で狭いテーブルを二人で囲む。
簡素な食卓には手作りの温かい食事が並び、コップには路肩の花がつつましい花を見せている。
オトコはこころ尽くしの料理に舌鼓をうち、オンナは彼の笑顔が嬉しい。
・・・ いいわねえ ・・・ ほ んとう に ・・・
これが ほんとうの ・・・ 姿 なんだわ ・・・・
ぽつり ― 温かい涙がテーブルに落ちた。
「 ― ありがとう ・・・ 」
「 ・・・え? 」
不意に声をかけられ リナはあわてて目尻を払った。
「 あ あら。 わがままいってここに置いていただいているのは私。
御礼を言わなくちゃいけないのは 私よ? 」
「 御礼なんていりません。 この ・・・ 暖かくて美味しい食事 ・・・
帰ってきて 家に灯が点っいて ・・・ お帰りなさい、って言ってもらえる。
・・・ ぼくには ・・・ 最高なことなんです。 」
「 あら。 そう言ってくれるヒトがちゃんといるのでしょう? 」
「 そういうことじゃなくて。 なんていうかな ・・・ その・・・
こう・・・ なにもかも忘れて 無防備になれる、 すとん、と安心できる そんな雰囲気 ・・・
なんでかなあ ・・・ それをあなたに感じるんです。 」
「 私に? 」
「 ・・・ ええ。 なんでだかわからない けど ・・・ 」
ジョーは箸をとめ 彼女をじっとみつめた。
「 まあま。 そんな情熱的な瞳はね、 彼女の向けてあげなさいな。
こんなオバチャンに惑わされてはだめ。 」
「 惑わす、 なんて! 」
「 さ、どうぞ沢山召し上がれ。 そしてゆっくりお休みなさい。 」
「 明日、 行きましょう。 あの・・・腕を保管してもらっているところに。
そうしたら ― 理由 ( わけ ) を教えてくれますね。 」
「 ・・・・・・・・・ 」
彼女はジョーの問いに なにも答えず、ただほんのりと笑顔をみせただけだった。
「 ― リナ ・・・ さん! 」
「 あら お皿が空ね? おかわり、持ってくるわね。 」
「 ・・・ あ す すみません ・・・ 」
オトコとオンナが差し向かって 心尽くしの食卓を囲んでいる。
そのごくありきたりの雰囲気に ジョーはどっぷりと浸かり ― 安らかな気持ちだった。
― フランソワーズ以外の女性に心を許している・・・
そんな状態を心地好いと受け止めている自分自身に ジョーは気が付いていない。
― カタン ・・・ ドアを開ければ真っ暗、と思っていたのだが。
「 ・・・ あれ? まだ起きていたのですか? 」
キッチンをのぞいた少年は 驚いた顔をした。
夜も更け すっかり片付いたキッチンのスツールに彼女が一人腰掛けていた。
「 え・・・ ああ ジャック。 ええ ・・・ ビーフ・シチュウ、温めていたの。 」
「 シチュウ?? だってそれ、今晩食べたですよね? 」
「 ええ ・・・ これ ね ジョーが大好きなのよ。
晩御飯に用意しておくわって約束したの。 だから もし帰ってきたら・・・ 」
「 もうこんな時間ですよ? ジョー・・・さんは今晩は帰らないんじゃ・・・ 」
「 そう ・・・ でも もう少し待ってみるわ。 ジャックはお休みなさいな。 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・さん 」
「 ほらほら ・・・ 冷えてしまうわよ。 ね? 」
「 フランソワーズさんこそ。 手 ・・・ こんなに冷たい・・・ 」
ジャックは両手で彼女の手をつつむ。
「 そう? 自分ではそんなに冷たくないのよ。 大丈夫、もうちょっと待って・・・寝るわ。 」
「 そうしてください! ジョーさんは ・・・ きっと仕事が忙しいんですよ。
でもちょっとひと言でも連絡くれればいいのになあ! 」
「 うふふ ・・・ 夢中になると他のこと、皆忘れちゃうのよね、あのヒト・・・ 」
「 けど ・・・けど! 」
「 いいのよ。 ほら・・・ ジャックはもうお休みなさいね。 」
「 ・・・ わかりました。 でも あと10分たったらフランソワーズさんも! 」
「 ええ ちゃんと寝ます。 じゃあ ・・・ お休みなさい 」
「 お休みなさい・・・ 」
ジャックの頬に フランソワーズが小さくキスを落とした。
「 ・・・・・・・ 」
ジャックの足音が寝室に消えると 辺りの物音は絶えた。
「 ・・・・・・・ 」
フランソワーズは溜息にも厭きて ぼんやりとガス台の上のシチュウ鍋を見つめる。
ジョー ・・・ 楽しみにしてる・・・って言ったのに
ジョー ・・・ あなたの好きなマッシュルームも入れたわ
これ以上 火にかければ あたため返しすぎて 煮詰ってしまう・・
! ・・・ これって。 わたし ・・・たち ・・?
時間を掛けすぎれば 煮詰って苦くなってしまう・・・の ・・・
・・・ ジョー ・・・ なにか あったの・・・?
よもや、と思い脳波通信を飛ばしてみたが 返事はなかった。
ジョーは通信のスイッチを切っていたのだ。
つまり、脳波通信を必要とする状況ではない、という彼の無言のサイン・・・
邪魔するな、ということ なの ・・・
・・・ 煮詰まったシチュウなんて いらない、っていうことね
― カタン ・・・
彼女はそっと立ち上がり シチュウ鍋をガス台から下ろした。
重いアタマを抱え、 彼女は静かにキッチンを出ていった。
サワサワサワ −−−− ・・・・!
「 うわ〜〜〜・・・ シーツがあ〜〜〜 」
ジャックが 洗濯ロープの側で大慌てをしている。
「 あわわ・・・ と 飛んでっちゃう〜〜 」
「 ふふふ 慌てなくても大丈夫・・・ ほら これで止めて? 」
「 え? あ ・・・ ああ これ か。 えっと うわ! 」
また吹きぬける風に ジャックは完全に遊ばれている。
「 いやあだあ〜 ほらほら端から止めればいいのよ。 可笑しなヒトねえ・・・ 」
「 あ ああ そう か ・・・ ここと ここ・・・ ああ これでいいですよね。 」
何箇所かに洗濯バサミを止め シーツはようやく大人しくなった。
「 ふうう・・・ こ これでなんとか・・・ 」
「 ここは海の側だからいつも風が強いの。 今日はちょっと特別だけど・・・ 」
「 そ そうなんですか。 僕 ・・・ こうやって干すのって やったこと、なくて。 」
「 ・・・ ああ そうね。 乾燥機を使うほうが便利ですものね。
でも ・・・ わたしはやっぱりこうやってお日様の光と風で乾かしたいの。 」
「 あ ・・・ そ そうですよね ・・・ 」
「 それにね。 お日様の下に干すと素敵なオマケがあるのよ。 」
「 オマケ? 」
「 そう、 オマケ。 ふふふ・・・ ジャックにも今晩 きっとわかるわ。
さ〜て ・・・ これで洗濯モノ干しはお終い。
手伝ってくれてありがとう 。 」
「 あ いえ 僕こそ ・・・ こんな素敵なこと ・・・ 最高でした! 」
ジャックは 空に向かって大きく両腕を差し上げ、深呼吸を何回もしている。
「 ふふふ ・・・ ここいら辺は空気とお日様は最高でしょ? ちょっと不便だけど・・・
さ! ウチにもどってちょっとオヤツにしましょうか。 」
「 わあ〜お ・・・・ あ それ、持ちます。 」
「 そう? ありがとう・・・ 」
ジャックは洗濯バサミを入れた缶を抱えた。
二人は裏庭をぽこぽこ歩いてゆく。
「 ・・・ここは にわ ですか。 」
「 そうよ、でも裏庭だから・・・ ほら 畑とか温室もあるし。 物置もあるわ。 」
「 うらにわ ・・・ 」
「 あ そうだわ。 温室でいちご、摘みましょうか? オヤツに・・・ 」
「 え!! い いいんですか・・・! 」
「 ええ。 ああ ぷちトマトもあるから・・・ それも収穫して。 」
「 え!! うわ うわうわ〜〜〜〜!! 」
ガラガラ ガシャ −−−ン ・・・!
ジャックは 思わず抱えていた缶を放り上げ ・・・ 洗濯バサミを撒き散らした。
「 あ! す すみません ・・・! 」
「 うふふふ ・・・ いいわよ、別に。 ねえ 温室って初めて? 」
「 ・・・ あ あの。 は はい・・・ 」
「 じゃ、先に行っててくれる? 収穫用の籠とハサミを持ってくるから。 」
「 はい! 」
ガッシャ ガッシャ ガッシャ ・・・!
ジャックは 裏庭の温室めがけ駆けて行った ― 洗濯バサミに缶を抱えたまま。
まあ・・・・ ふふふ ・・・ほっんとうに可笑しなコねえ・・・
天日干しや温室を知らないって・・・ ずっと都会暮らしなのかしら。
マンハッタンとかのビル街育ちなのかなあ・・・
キッチンで籠と花バサミを用意しつつ フランソワーズはクスクス笑っていた。
ジャック − あの少年の笑顔がなんとも可愛いらしい。
彼の笑顔に そしてちょっと困った顔に フランソワーズの心は揺れた。
ふふふ ・・・ 可笑しなコ ・・・・
・・・ この甘酸っぱい気持ち ・・・ なに?
なんだか抱き締めたくなるくらい ・・・懐かしい・・・
「 ふんふん・・・ 素敵なお茶タイムになるわねえ〜 」
彼女はハナウタ混じりに 再び裏庭に出ていった。
コポコポコポ ・・・・
ポットにお湯を注げば 馥郁たる香りがほんわりと湧き上がる。
「 ほう ・・・ いい香りじゃな。 」
ギルモア博士は 分厚い書物を置きめがねも外している。
「 ええ ・・・ この前、グレートが持ってきてくれました。
そして ほら・・・ 温室に苺が こんなに! 」
フランソワーズはボウルに一杯の苺をテーブルの上に置いた。
「 おお・・・これは 美しい・・・ 目の春、そして香りの春、か。 」
「 あら 目の春って素敵な言葉ですわね。
これ・・・ ジャックが摘んでくれたんです。 丁寧においしそうなのばかり。 」
「 おお おお ありがとうよ。 根気がいる仕事じゃったろうに ・・・ 」
「 え えへ・・・ でもとっても楽しかったです!
生きている植物って ・・・ すごいですね。 エネルギーが溢れてるみたい・・・ 」
「 植物も動物も <生きる> とは エネルギーを発散させることなのじゃよ。 」
「 ・・・ エネルギーを ・・・ 」
「 さあさ。 お茶とお菓子とこの美味しい苺を頂いて
生きているわたし達は エネルギーの補充をしましょう? 」
フランソワーズは明るく言って 皆にお茶を配った。
「 はい。 うわ〜〜〜 ・・・ 食べちゃうの、もったいないなあ・・・ 」
ジャックは摘まみ上げた一粒を 前後左右から眺め楽しんでいる。
「 ・・・ ん〜〜〜 美味しい♪ 」
「 ふむふむ ・・・ ほんに春の味じゃ 」
「 ええ おいしい・・・ 」
部屋中に苺の香りとお茶の香りが明るい光の間に漂っている。
博士とフランソワーズと ジャック ― 三人ですごすゆるゆるとした時間・・・
不思議な穏やかさの中で 縁も所縁もない人間達が微笑みつつ過している。
・・・ これ これが もしかしたら ホーム?
こんな感覚が こんな雰囲気が かぞく ・・・?
ジャックは苺を持ったまま ふ・・・っ目を閉じリビングに満ちている空気をゆったりと味わっていた。
「 ・・・・? ( なんだか 本当に変わったコねえ・・・ ) 」
フランソワーズはくす・・・っと笑い お湯をお茶ポットに注ぎ足した。
ほんのり温かい雰囲気に 彼女は心地好く浸っていた。
― ジョーがいない。 この雰囲気にいるべき彼が 欠けている。
その事実をすっかり忘れていることに彼女は気づいていない。
§ 北硫黄島ではなく
「 了解。 捜索を続行します。 」
男は ごく普通の声で応えるとごく普通のPCらしき装置から離れた。
「 NO.2は? 」
「 まだ戻りません。 」
「 帰還次第 連絡をいれろ。 」
「 了解。 あの ・・・ どちらへ? 」
後方のデスクにいた男が 尋ねた。
「 いったん 本社 へ戻る。 定時報告は そっちに。 」
「 了解。 」
後方の男は端正な顔で表情ひとつ変えずに頷いた。
「 ん・・・ 」
指示を出した男も抑揚のない声で答え コートを着るとその部屋から出ていった。
そこはごく普通の ― マンション・オフィス。
都会に無数にあるマンションの中の一戸をオフィスとして使っている らしい。
何をやっているのか ― 見ただけでは見当もつかない。
しかし 部屋の中には普通のオフィス机とPCがあり数人の事務員が机に向かっている。
事務員も どこにでも居そうなごく普通の ― あまり目立たない 人々だ。
そんな人々が淡々と <仕事> をしている。
― 似たようなオフィスが 都会のマンションを中心に徐々に増えていた。
特に 不審なトコロは見当たらない。
多くの家主は唯々諾々と 賃貸に応じていた ・・・
家賃さえきちんと払ってくれれば問題なし。 ・・・ 疑問に思うものはなかった。
木の葉を隠すには森に。 そして ヒトが隠れるには人混みに紛れるのが一番なのだ。
オフィス仕様の部屋を出、男は公共交通機関を使い再開発地区、とよばれる地域にやって来た。
「 ・・・・ ん 」
「 お ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
似た風体の男たちがぽつり ぽつりとやってきて巨大な高層ビルに入ってゆく。
そこは商業施設と住宅、 そして オフィスが入っているので常にざわざわと不特定多数が出入りしている。
その中に彼らは紛れ込み ・・・ 埋もれてしまった。
― カチ。
よくあるミーティング用の部屋に 例の男が入ってきた。
「 ― 全員 揃ったか。 」
「 はい。 」
円卓を囲む人々が一様に頷く。
「 ― シールドを。 」
「 はい。 」
カチリ、と微かな音がしたが ― なんの変化もない ・・・ ように見える。
ほんの数秒を置き、男が口を開いた。
「 NO.2 は依然として消息不明。 同行の < ´ > ( ダッシュ ) も同様だ。 」
「 では 制限時間を待って廃棄ですか。 」
「 しかし! NO.2は司令官の ・・・ 」
「 <´>は稀にみる完全体です。 廃棄は惜しい。 」
「 うむ。 それにNO.2は <オトシモノ> をしたそうだ。 」
「 ! それでは回収班を向かわせる。 ことは重大だ。
NO.2の オトシモノ というと ・・・ 腕 だな? 」
「 ああ。 本人に回収させる。 時間内に帰還しない場合には ― 廃棄だ。 」
「 は! 」
円卓を囲む男たちは一同にひくく呼応した。
「 潜入作戦を続行せよ。 トンネルが失敗した場合には必須のものになる。 」
「 了解。 進捗度は35% ・・・ 続行します。 」
「 よし。 引き続き極秘を徹底せよ。 」
「 了解。 ・・・ 反対派からの妨害が続いています。 」
「 反対派 か。 摘発して妨害を潰せ。 目立つことは避けろ。
それよりも 同行者たちの様子を報告せよ。 」
「 はい。 ・・・ 同行者達は少人数に分かれ潜伏しています。
よく < 馴染んで > いる模様です。 」
「 そう か。 ・・・ それは よかった。 よし、解散。 」
「 は! 」
ガタ ・・・ 椅子を鳴らし、男たちは立ち上がった。
「 失礼します! 」
「 ― うむ。 」
シールドを解除し、男たちは次々に出て行った。
大きな部屋に残ったのは 指揮命令していた男ひとり。
彼は窓に近づいた。 ブラインドをほんの少しずらせば柔らかい光が一筋、入ってくる。
「 ・・・・ この光の下で ・・・ 生きてゆきたいものだ ・・・ 」
無表情な男には似合わぬつぶやきが空間にちらばり、消えた。
― ふ ・・・
低く吐息をつくと 男は再び仮面のような顔になり出ていった。
そう ここが彼らの本拠地なのだ。
ごく当たり前の場所 ごく平凡な人間に 人々はなんの疑念も持たないものだ。
― 木の葉を隠すなら 森に。 ヒトが隠れるなら雑踏が一番 ・・・・
わざわざ無人島などを 占拠する必要はない。
都会の雑踏が ― 一番の隠れ蓑 ・・・ 彼らは巧みのその姿を消していた。
§ 脱出と追跡 ( すれちがい )
― カタリ ・・・・
その門はあっけないほど簡単に開いた。
「 ・・・ ごめんなさい。 こんなに ・・・ 信用してくれているのに・・・ 」
ジャックは小さくつぶやき、そっと振り返った。
薄闇の中に すこしばかり古びた洋館の姿がぼうっと浮き上がってみえる。
まだ 夜明けまでにはすこしばかり時間があるのだ。
「 ありがとうございました。 僕 忘れません。
ギルモア博士のおおらかな温かい言葉 ・・・ 僕をそのまま受け入れてくれた
フランソワーズ! ・・・ 苺 ・・・ 赤い宝石だよね・・・
忘れない、 僕 ・・・どこへ行っても生きている限り 忘れない ! 」
ぺこり。 ジャックは深々とお辞儀をすると足音を消して去っていった。
東の空がほんの少し 闇の濃さが薄まってきた。
鳥もまだ羽毛に首をつっこんでいる時間、 ギルモア邸は静かに寝静まったままだった。
少年はまだ残っている星明りの下 しずかに坂道を降り 闇に消えた。
「 さあ ここです。 」
ジョーは門の前で車を止めると 隣に座るリナに言った。
「 ここ ・・・ 研究施設、 と言ってたけれど ・・・ 普通の家みたい。 」
リナは窓からじっとギルモア邸を眺めている。
「 ええ。 一応は普通の家、ですから。 そして住んでいるニンゲンも普通のヒトたちですよ。 」
「 そう? ・・・ あなたのご親戚? 」
「 う〜〜ん ・・・ ? そうですねえ・・・ なんて言ったらいいのかな。
ここは ぼくの実家で皆はぼくの家族、なんです。 血は繋がっていないですけど・・・ 」
「 あら 素敵な関係ね? 」
「 ・・・ え? 」
ジョーは すこし驚いて振り返った。
そこには爽やかな笑みが 彼に向けて満開になっている。
「 あの ・・・ そ そうですか? 」
「 ええ。 私、好きだわ。 うん、わかったわ。 」
「 え・・・な なにが ・・・ 」
「 今のジョーの説明で わかったの。 ここの人達は信じることができるってね。 」
「 あ・・ そ そう思ってくれたら すごく嬉しいです。 」
さあ どうぞ? とジョーは車から降りた。
ひんやりする空気の中、 ジョーはリナと連れ立って玄関までの小径をあるく。
「 ・・・ 綺麗なお庭ねえ ・・・ 」
「 あ は ・・・ 庭弄りが好きなんで ・・・ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 あ こっちです どうぞ リナさん。 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーは 玄関ポーチに入るとチャイムを押した。
ギルモア邸には高度なセキュリティ・システムが設置してあり、門を開けた段階で
ジョーが来たことは記録されている。
いや、 <ジョー> であるからこそ、門はすんなりと開きなにごとも起こらないのだ。
フラン ・・・ もう起きているよな?
― カチャ ・・・! 内鍵が開き 玄関の扉がひらく。
「 や やあ お早う ・・・フランソワーズ 」
「 ジョー !! 」
声と一緒にフランソワーズ自身も 飛び出してきた。
「 大変! 大変なの!! 彼、 いなくなっちゃったのよっ !! 」
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: 02,21,2012. back / index / next
********* 途中ですが
続きます!!! 原作の目次?も対照してください〜
セカンド・ラブ合戦 ・・・ ?? (^.^)v